1.交流流体の概念 ここでいう交流流体とは流れ方向が周期的に逆転する流れです。
電気の世界では電気エネルギー運搬手段として直流よりも交流が多く使われるのは御承知の通りですが、
流体の世界では殆ど直流流体(一方向の流れ)で使用されており、交流流体はあまり見掛けません。
しかし流体の場合にも交流を採用するメリットはいくつか考えられます。そして電気と同じ様に単相の交流
流体以外にも2相,3相といった多相交流流体も考えられます。単相と2相交流流体は加熱用に利用価値
が有ると思われ、3相交流流体は動力の伝達に応用可能と思っています。
2.交流流体の加熱への応用(単相)
通常の熱風加熱は〔図−1〕のように一方向のエアー流によって熱風を作り、それを加熱対象物に吹きつ
ける事により加熱します。吹きつけられた熱風は加熱対象物に熱を渡す事で温度が下がりますが、それ
でもまだ十分に高温の熱風が大気中に放散されます。この熱は利用できませんし、むしろ有害です。
それに対して〔図−2〕の交流流体による加熱は一方向の流れではなく、吹いたり吸ったりの呼吸作用で
加熱します。吹き出した熱風の残った熱エネルギーを次の吸引過程で、ある程度回収できるため熱効率
が大幅に向上します。
○メリット @熱効率の向上(電気代の節約)
A周囲環境が改善→室内温度が上がりにくい。加熱により発生した煙などを熱風ヒータが再
吸引して熱分解する。
×デメリット @連続的な吹きつけに比べると加熱対象物の温度上昇が遅い。
A特殊設計された熱風ヒータと特殊なポンプが必要。
※応用分野 @比較的低温(400〜500℃)の加熱
A家庭用電熱器(鍋の材質を選ばず、熱効率が高い)
B加熱対象物が有害ガスを出すような場合

すこし変わった応用として焼き肉器を考えてみました。熱風加熱は赤外線加熱に比べ均質な加熱ができる
点で適しているとも言えるのですが、通常の熱風加熱では廃熱が多くて室内環境が悪くなりすぎるとか、常
に乾燥した熱風が吹きつけられるので、肉等が乾燥してしまうというのが難点だったであろうと思います。
そこで交流流体加熱の応用です。交流流体加熱では廃熱が少ないので室内が暑くなりません。廃熱をもっ
た煙は、かなりの部分が熱風ヒータに再吸入され、内部で熱分解されてしまいます。
また呼吸作用で加熱するので、常に新しいエアーが供給されるのではなく、その場のエアーを加熱する形
ですから湿度は限りなく100%に近づき、肉などが乾燥するのを防ぎます。
尚、これから明らかな様に、交流流体加熱は乾燥の目的には適していません。( 蒸発するものが水蒸気
の場合。ただし蒸発させる対象が塗料の溶剤のようなものであれば、熱風ヒータが吸引して熱分解するの
で乾燥にも使えます)

3.2相交流流体による加熱
単相交流流体による加熱よりも更にメリットを出しやすいのが2相交流による加熱です。
2相交流とは2つのエアー源があり、その吹き出しと吸引のタイミングが逆になるような流体による加熱で
す。片方が吹き出しているとき、もう一方は吸引のタイミングになるため、両者を近づけると排熱の回収が
完璧に近くなります。また密閉されたボックス内に熱風を送り込む様な場合、単相交流では内部圧力が変
動してしまいますが、2相交流の場合は両者が打ち消しあってボックス内の圧力変動が無くなります。
〔図−4〕はボックス内を2相交流流体により加熱している図です。2本の熱風ヒータの吹き出しと吸引のタ
イミングが逆なため、庫内の圧力変動がありません。
通常このようなボックス内の熱風加熱にはボックス内にヒーターとファンを入れ、内部でエアーを循環させ
ますが、これの問題点はファンが高温にさらされる為、故障しやすいとか高温のものが作りにくい、などの
問題が有ります。
それが2相交流加熱ならポンプは常温でよいので問題ありません。ボックス内も熱風ヒータで加熱できる最
高温度まで理論上、昇温可能です。

4.3相交流流体の動力応用
動力の伝達手段として3相の交流流体が利用可能です。動力伝達の場合、流体は気体よりも液体(水と
か油)が適しています。
比較的低速度で、大きな力が必要な場合にメリットがあるものと考えます。単なる動力ならば電気モーター
の方がよいのですが、〔図−5〕の様な構成にすると入力軸と出力軸が完全な同期運動をするため、遠隔
での操舵装置などに応用が可能と思われます。 また深海などの極限環境における動力としても応用可能かもしれません。
3本のシリンダーは〔図−5〕の様な直列配置でもよいのですが、星形配置も考えられます。
厳密にはピストンロッドの角度が中間から上と下では異なるため、クランク機構に多少の遊びを設るとかし
ないと滑らかに回転しない可能性があります。カム機構を使えば完全なものができそうですが、複雑になる
ので現実的ではないでしょう。

5.交流流体用変圧器,その他の要素部品
交流流体は電気の交流と同じ様に変圧が簡単だという事もあります。これを採用するメリットを考えるとす
れば、電気の場合と同様に長距離の配管の場合、高圧に変換にしておいた方が途中のエネルギーロスが
減ります。

変圧器以外にも電気回路と同様にコンデンサ(容量)やコイル(誘導成分)等の要素部品を作る事ができま
す。
コンデンサに相当するものは、例えば太径の筒の中央をダイヤフラムか、ゴム板て仕切ったものです。
これを流路に挿入することにより直流成分をカットできます。具体例としては、交流エアーポンプに有害ガス
が逆流してくるのを防ぐためにポンプ出口に挿入すれば、交流流体は伝わりますが、汚染ガスがポンプに
逆流入してくるのを防ぐ事ができます。
コイルに相当するものは、例えば太径の筒の中に羽根車を配置し、その軸に大きな質量を付けたものが
相当します。
この様なコンデンサ(容量成分)とコイル(誘導成分)を組み合わせて、LC共振回路を構成する事も可能です。
ダイオードに相当するものは弁機構となります。ダイオードを使えば直流にする事ができますが、半波整流
では流路に直流成分が流れる必要があり、不都合です。ブリッジ全波整流にすれば交流流路に影響を与
えずに直流流体を得る事ができます。
増幅などの機能については直流流体でなくては構成が困難です。
6.交流流体モーター
交流流体用のモーターも考えられます。〔図−5〕は電気の同期モーターに相当するものですから同期速
度以外では回転できず、使いにくい面もあります。
そこで別の構造としてハウジング内に羽根車を設けて、その3方向に3相交流流体を接続すれば電気の
誘導モーターに相当する3相交流流体モーターができます。これは同期速度以下でも回転できます。しか
も電気の誘導モーター同様、同期速度以上にはならない為、直流のエアーモータのように軽負荷で回転速
度が上がり過ぎるという心配もありません。
7.流体自体を発熱させるヒータ
前記加熱応用では流体を熱のキャリアとして利用しましたが、流体自体を発熱させる事も考えられます。
これは電気が抵抗器を流れると発熱するのに対応します。発熱原理は摩擦熱です。
直流流体でも流体が抵抗体を通過することで発熱させる事は可能ですが、せっかく発熱しても流体がその
熱を運び去ってしまうため、抵抗体の温度は上がりません。しかし交流流体なら平均値としては流体が移
動しないので、抵抗体が発熱して温度上昇するというヒーターになりえます。
発熱量の計算式ですが、流体の場合 圧力∝流体抵抗×(流量の2乗) となりそうなので、電気の計算より
も難しくなりそうです。
8.海中でのエネルギー
深海の開発や海中都市などでは、電気モーターや電気ヒーターは危険がともないます。かといってエアー
機器や油圧機器は泡の発生や事故での海洋汚染のリスクがあります。それらを勘案すると、海中では海
水自身を動力伝達や熱源とする機器が一般化する可能性があります。
中央のポンプ室から加圧海水が送りだされるわけですが、そこで採用されるのは直流流体になるのでしょ
うか、交流流体になるのでしょうか。
電気ヒータだと事故がおきると感電の危険もありますが、流体ヒータなら安全です。直流流体でヒータを構
成しようと思うと複雑になりますが、交流流体なら構造が簡単です。
9.攪拌用途
従来、電気炉その他の密閉容器内を攪拌したい場合には、内部に攪拌用ファンを設けるなどしていました
が、高温雰囲気になると軸受けなどに高温使用限界があり、また腐食性ガスの場合なども材料の選択が
難しいといった問題がありました。また攪拌のために外部から回転力などを密閉容器内に伝えるのは漏れ
の問題も発生します。
交流流体攪拌機はこのような難しい使用条件でも簡単に攪拌できる装置です。これは往復運動する気体
流を用いて雰囲気の攪拌を行います。
例えば交流流体が流れているホースの中では気体が往復運動しており、平均の流れはゼロになります。
つまり電気の交流と同じです。これを密閉容器内に導入すると、空気の流れ込みはゼロなのに、容器内で
強い気流を発生させることが出来ますので、これを攪拌目的で使う事が出来ます。

[図−7]交流流体攪拌機の仕組み。攪拌の場合は50Hz〜60Hzの交流流体で可能です。

[図−8] 実際の交流流体攪拌機 詳細は 
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